驢馬はいいました、『あなたは驢馬の事をなにも知らず、知ろうともせず乗り続けて来たのですか、それはたいそうな事です。』
軽く首をふりふりして、驢馬は続けます。
『私が膝をついたとき、あなたはありったけの呪詛とともにあなたの命を優先せよとおっしゃった。
そうです、わたしは驢馬ですからね、あなたをどこまででもお連れする。それがお勤めです。
そう思い、ブルブルと鼻をふるわせエイヤと立ち上がり、ついにここまでやってまいりました。
しかし、驢馬も、水を飲まねば倒れまする。眠らねば死にまする。誰とも通じ合わなければ魂は壊死していきまする。』
驢馬も本当はこんな事を言いたいわけではありませんでした。しかし、驢馬は、自らの命の限りを感じていたのです。このままでは、驢馬としての私は死んでしまう、そうすれば、乗っているこの方はどうなる。
荒野で足留めされた主人は、自分の顔をじっと見つめて口をパクパクさせて一歩も動かない驢馬に苛立ち、こう言いました。
「ええい、驢馬のかわりはいくらでもいるのだ、この荒野で乗り捨てられたくなければ、早うドルネシアのところまで連れてゆけ。さぁ、さぁ!」
『おお、主人よ!もしやあなたは、乗るべき動物を間違えておられるのではあるまいか。』
驢馬はこの荒野でひとり生き延びることを思い浮かべ、静かに涙を零した。そして鳴り響くいななき。
オーキ!オーキ!オーキ!