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はてなダイアリーの一冊百選 #006 [seiko]

『豊かに実る灰』 amazon ISBN:4838707924
著者 : いとうせいこう →オフィシャルサイト  占 : マドモアゼル朱鷺



追記 2011/02/15:Twitterでいとうさんがこの小説について触れてらっしゃったので、検索でこの記事にあたった方が大勢いらっしゃるようです。随分前の若書きで、非常に恥ずかしい!今日『豊かに実る灰』を読み返しましたが、やはり本当に素晴らしい小説だとおもいました。ですから、以下の文章は適当に読み飛ばして、是非小説本編を読んでください。 ふう(笑)



「予言には唾を、暗示には微笑みを」


この一言で、一瞬にしてノックアウトされた。これは、いとうせいこうの小説『解体屋外伝』の一説である。さらに続く言葉、「暗示の外に出ろ。俺達には未来が有るんだ。」
当時多感な文学少女を気取っていた高校生の私は、この本に出会った後、のめりこむようにいとうせいこうの著作を読みあさるようになった。


いとう氏の どの小説もそれぞれ素晴らしいのだが、(→全著作リスト) 今回は冒頭で紹介した、いとうせいこう小説ファンのドグマともいえる(と私は思っている)『解体屋外伝』ではなく、『豊かに実る灰』という作品を選ぶことにした。



『豊かに実る灰』の記述方法について
世界の未来をタロットで占い、その結果が示すイメージから小説を書くという試み。占いで示されたキーワードは、13ヶ所の地名(世界各地)と、それぞれの暗示的な言葉。それを1995年から2010年の15年間に限定した年度と組み合わせる。


第一章1997年RETREAT南大平洋海嶺
第二章2002年いたずらか、もてなしかアンデス山脈
第三章1996年鬼魂越獄中国
第四章1999年女神と芍薬インド
第五章2009年馬に乗るウズメノミコト南極
第六章2006年トリノの砂時計トリノ
第七章2006年転換する双児南アフリカ
第八章2000年SIR COME DECISIONアラビア半島
第九章2005年埋められた記憶日本
第十章2015年以降マミ・ニ・アイナ マミ・ニ・アイナマダガスカル
第十一章2001年TENTACLEDアメリ
第十二章2010年二枚の戦車地中海
第十三章2002年豊かに実る灰イギリス


冒頭部"面倒な説明"より抜粋

今回、僕は偶然を契機にして短編連作をしようと思いたった。その企て自体は古来行われてきたことの反復である。だが、その偶然に現実を組み合わせ、いくつものテーマを重ね合わせていけば、僕の書くものはほんの少しずつ過去のテキストから離れ得るかも知れない。
(中略)
僕が始めたいのは、もっと占いから遠ざかる創作だった。タロットカードはあくまでも僕に言葉を与えるだけであって、それは古い時代の詩人が自然から霊感を得た(と言い張る)ようにして、偶然からイメージの資料を得るような企てなのだ。
あえてオカルトに基盤を置き、科学としての小説を繰り広げてみること。最もオカルティックな方法論を取りながら、実は最高にクールな物語を作り上げてみること。それは反物語が不可能である現実を、物語によって突き崩そうとする行為に似ているかも知れない。


各章は男性と女性が交互に物語ることで綴られている。一見ばらばらに進んでいるかのような二人の話は章を重ねる毎に、時に不協和音的に重なりあい、時に共鳴し、そして最後の章で溶けあい、読者に一つの筋が流れ立ち現れる。
この物語構成は構造的にはよくあるものだし、企画自体もそんなに非凡なものでもない。
しかし、暗示が現実を支配した一瞬、この小説は一気に重みを増した。


「予言には唾を、暗示には微笑みを」
アメリカ、2001年、というあたりで勘のいい人は気付いたかもしれません。読者である私は、否定しつつもオカルティックな力を感じざるを得なかった。何度読み直しても、第十一章の内容はあまりにも現実のそれを予言するように読めてしまうのである。


この章を書くにあたって出たタロットカードの意味
 北アメリカ_死神(逆位置)新しいスタート
 2001年_月(逆位置)変化による風


カードの組み合わせから導かれた言葉
 獅子からうまれた小羊(7月から8月)
 聖女の名前がついた場所
 橋が崩れる



ここでは具体的に内容は書かないこととするが、実際におこった出来事との符号とその整合性には強い衝撃を感じ、私は読みながら震えが止まらぬほどであった。


私は人の持つ「直感」ともいうある種の情報処理能力を信じており、私自身、その場に漂う「情報」を収集して一瞬である形に凝縮して把握する、ということ、そしてその速度には自信を持っているほうである。
ごくたまに、先もって読み過ぎてしまう先鋭的な瞬間はあるようは気がするし、また、いとうせいこう氏はその能力がとりわけ高いとも思う。
また、漠然とした予感が、文章になることで文字という媒介によって抽象化され、思わぬところから強い意味を持つ言葉を引き出すことも往々にしてあると信じる。


しかし。ここでいとう氏は予言書を書こうと思っていたわけではない。これに予言書的性質を求めているのは、他ならぬ私の願望である。
言語を杖にしながら非言語という山頂を目指す登山をしているような気分だ。これは詩だ、詩ですよ、いとうさん。
予言には唾を、暗示には微笑みを。そしてまた、暗示の外に出なければ、私達に未来はないんだ。


意味なんて求めてはいけない。ただそこには、美しい世界と出会う瞬間があるだけなのだ。
そう心に言い聞かせながらも、今日も意味の魔力からは離れられないアンビバレンツな80年うまれ、okaz、つい最近社会人になりました。(おわり)


いとうせいこう  1961年東京うまれ。作家として執筆活動に励むほか、クリエーターとして映像作品、舞台などに挑む。
マドモアゼル朱鷺(まどもあぜるとき)  タロットにサビア占星術を合わせた占術を行う。


『豊かに実る灰』 1996年6月20日第一版発行
著者 いとうせいこう
発行所 株式会社マガジンハウス
装丁 坂本志保
ISBN 4-8387-0792-4 C0093
定価1500円
本書は「鳩よ!」(1995年3月号〜1996年4月号)に掲載された作品を加筆修正してまとめられました。
 


おまけ
いとうせいこう本人による第七章朗読 記録映像(.ram)
http://subaru.shueisha.co.jp/html/cafe/cafe10r_f.html





ふう。こんな感じになりました。面白いのだろうか?でも是非この小説はみなさんに御紹介したかったのです。なんとなく筒井康隆 id:fvjk:20040317 からの流れもあっていとうせいこうの驚愕の作品を選択しました。言葉遊びによる予言ごっこが本当になってしまったこの恐怖!
この本は現在絶版ですが、古本屋やネットで購入は難しくないはずです。もしくはお近くの図書館でも見つけることができるかもしれません。
御意見御感想もどうぞお気軽に。
現在、次のバトンをアキオンロさん(→はてな内サイト)にお渡ししたいと打診中です。
ではでは。